いまから約16年前の2004年(平成16年)、年金制度改正により公的年金の給付額をいままでの「物価スライド」方式から「マクロ経済スライド」方式へと変更しました。

物価スライドとは前年の消費者物価指数をもとに物価の変動に応じて年金の給付額を上下する仕組みでした。

ただそれでは現役世代が支払う保険料を公的年金として高齢者に給付する世代間扶養をとっている日本の公的年金制度では、ながらく景気低迷と人口減少傾向より受給者の給付水準を維持していくには現役世代の段階的な保険料の引き上げが必要とされていました。

増える公的年金受給者と減り続ける現役世代。

多分もっと前から5年に1度の公的年金の財政検証で、近い将来年金財政の均衡が保てなくなる危機感が政府にはあったと思われます。

私どもも平成15年から平成16年当時から、「公的年金だけでは不安があるので老後資金は自助努力で何とかする時代ですよ!」とお客さまにお伝えしていました。

そんな中、現役世代の人口や平均余命の伸びあるいは賃金や物価上昇によって、公的年金の給付額の改定率を調整し給付額の増加を抑え、少子高齢化により年々増加が予測される現役世代の保険料負担を軽減する理由でマクロ経済スライドが導入されました。

でもじつは別の意味もあります。

物価スライドでは物価上昇水準に公的年金支給額率もあわせる方式でしたが、物価上昇に支給率をあわせていては年金財源に影響がでるので、物価が上昇しても支給率に調整を入れ支給率の抑制を図ることです。(物価スライド方式は物価下落時は公的年金支給額も下がり、過去に2度特例措置で物価スライドでの支給減額を一時停止させたことがあります)

「マクロ経済スライドはデフレの時は適用しませんので、インフレの時は受給者の方々は多少ガマンしてくださいね」的なことです。

このマクロ経済スライドを導入することで、どんなに物価が上昇しようが物価上昇水準まで公的年金支給率が上がることはなくなりました。

2020年1月24日、総務省が発表した2015年を100と基準とした場合、2019年平均の全国消費者物価指数は前年比0.6%上昇の101.7。(価格変動の大きな生鮮食品は入っていませんが、生鮮食品と合わせると0.5%の上昇となります)

ちなみに2019年は2018年に比べて0.9%ほど物価上昇しています。

これで3年連続の物価上昇となり、毎年緩やかな上昇傾向といえます。(生鮮食品とエネルギー関連を除けば6年連続の上昇となりますが)

かたや公的年金はといいますと、同じ日に厚生労働省で2020年度の支給率はマクロ経済スライド適用の0.2%の引き上げと発表。

消費者物価指数のうち生鮮食品を含む総合指数では0.5%の上昇で、これを基にした賃金変動率が0.3%増となり、物価の上昇が賃金の上昇を上回る場合は賃金上昇率に合わせるので本来からすると公的年金支給額は0.3%増になるはずですが、年金財政を維持するため物価や賃金の上昇よりも公的年金支給率を抑えることがマクロ経済スライドの目的なので、2020年の調整分0.1%が抑制され0.2%増のみとなります。

2019年もマクロ経済スライド適用の公的年金支給率0.1%増でした。

物価は間違いなく上昇しているのに公的年金はわずかながら増えてはいるものの物価上昇に見合うだけの水準とは言い難く、もはや公的年金の支給率は物価上昇率からすれば目減りしているような状況がここ数年続いています。

今まさに公的年金を受け取っているシニア世代が、日本の公的年金制度に不安を感じているのではないでしょうか。

この現実、皆さま忘れないほうがいいですよ!