2015年1月17日、7年7か月ぶりにボクシングのヘビー級チャンピオンをアメリカに取り戻した、アメリカボクシング界の救世主 デオンティ・ワイルダー。
19歳と若くして結婚し、生まれてきた娘さんも脊椎の難病を抱えていたこともあり、大学を中退し稼ぐためにトラック運転手とレストランを掛け持ちしながら働きはじめました。
2005年、20歳のときに近所のボクシングジムでたまたまボクシングを始めたことが、のちのちのサクセスストーリーにつながっていきます。
アマチュアでは2008年の北京オリンピックにも出場。
ボクシング競技ではアメリカ代表で唯一のメダルとなる銅メダルを獲得。
北京オリンピックから帰国後にプロ転向を発表し、2008年11月にプロデビューを飾ります。
そしてここからワイルダーの脅威的なレコードが開始されます。
2015年1月に時のWBC世界ヘビー級チャンピオン カナダのバーメイン・スティバーンからWBC世界ヘビー級王座を獲得するまでの戦歴が32戦32勝32KO無敗。
デビューして以来、2014年8月まで全ての試合を4ラウンド以内のKOで終わらせています。
WBC世界ヘビー級王座を獲得したバーメイン・スティバーン戦はフルラウンドの12回判定となりましたが、大方の予想通りワイルダーのフルマーク判定勝利。
チャンピオンとなった後もKOの山を築き、2018年12月にタイソン・フューリー戦までが7戦7勝7KOで、判定勝利となった前チャンピオン バーメイン・スティバーンとのリターンマッチも2017年11月に1ラウンドでKOしています。
2018年12月のタイソン・フューリー戦は9ラウンドと12ラウンドにフューリーからダウンを奪いながらも、試合運びのうまいフューリーを倒しきれず12回判定となり三者三様のドロー。
このタイソン・フューリー戦がデビュー後初の勝敗のつかない引き分けとなり、連勝もここでストップとなりましたがいまだ無敗。
2019年5月にドミニク・ブリーズエールを1ラウンドKOしたのち、ワイルダーは2018年3月に10ラウンドKOで下したルイス・オルティスに再びチャンスを与えます。
理由はワイルダー自身の娘さんが脊椎の難病を患っているのと同様に、オルティス自身も難病の娘さんを抱え、娘さんの難病を治療するため祖国キューバを離れアメリカに亡命してきた選手で、お互いの娘さん同士も仲が良いこともあり再び王座に挑戦する機会を与え、2019年11月23日 アメリカ・ネバダ州ラスベガスにあるMGMグランドで試合が組まれました。
デオンティ・ワイルダーにとってWBC世界ヘビー級王座防衛戦10回目にあたる注目の試合でしたが、試合はほぼオルティスペースでラウンドが進んでいきます。
試合が決定した以降オルティス陣営は前回のワイルダー戦での敗戦を踏まえ、対ワイルダー戦に向けた調整を徹底してきたことをうかがわせる試合運びを見せ、ワイルダーに何もさせずオルティスのカウンターとコンビネーションだけが輝きを見せます。
ワイルダーが得意の右強打をスウィングしてきたところをオルティス得意の左カウンターがヒットする展開がたびたび飛び込んできます。
いままで何人もマットに沈めてきたワイルダーの右強打をうかつに出そうものなら、すぐさまオルティスの左カウンターが的確にワイルダーを捕らえます。
オルティスも前回のワイルダー戦において、チャンスどころでラッシュを仕掛けスタミナ切れになったこともあり、コンビネーションは見せますがダメージングブローは左カウンターを中心とし無駄な仕掛けを見せません。
先手は常にオルティスのコンビネーションが取り、ワイルダー特有の力を込めたワイルドな右スウィングの打ち終わりにオルティスの左カウンターが的確にヒットするので、ワイルダーは前になかなか出られずパンチも少なくなっていきます。
6ラウンドまではオルティスの一方的な試合展開となり、「このままラウンドが進めばワイルダー初の敗北か?」と思わせました。
7ラウンドに入りワイルダーが手を出し始めますが、あまり的確なヒットはありません。
それでもいままでと違いブロックされても顔面やボディにパンチを当てていくワイルダー。
そして7ラウンド、「ワイルダーもこのラウンド多少手は出したがやっぱりオルティスのコンビネーションが勝っていたな」という印象を残しながら7ラウンド終了間際の2分54秒に戦慄が走ります。
一瞬の隙を狙いすましたかのようなワイルダーの右ストレートがオルティスの顔面を直撃、白目をむきながら背中から倒れていくオルティス。
なんとか上体を起こし、マウスピースを入れ直して起き上がろうとしますが、無情にもカウントは進みカウントアウト。
ルイス・オルティスのキューバ人初となる世界ヘビー級王座の夢は、再びブロンズ・ボマーの強烈な右ストレートによって砕かれました。
デオンティ・ワイルダーはこれでWBC世界ヘビー級王座を10度防衛とともに43戦42勝41KO1分の無敗のまま、今後組まれるであろうビックマッチへと期待が膨らんでいきます。
再びあと一歩のところで敗れてしまったオルティスですが、誰もが対戦を嫌がるブギーマンは変わらないはず。
40歳とアスリートとしては後のない年齢ですが、最後の一花を咲かせるべく奮起してくると思います。
オルティスもボクシングのヘビー級戦線においてのビックマッチに必ず絡んでくることが予想されますので、今後も目の離せない存在となるでしょう。
そして2019年12月8日にボクシングヘビー級においてもう一つのビックマッチ、世紀の大番狂わせを演じて見せたWBAスーパー・IBF・WBO統一世界ヘビー級チャンピオン メキシコのDestroyer アンディ・ルイス 対 前チャンピオン アンソニー・ジョシュアのダイレクトリマッチがおこなわれます。
ワイルダーとともにヘビー級では無類の強さを発揮していたジョシュアが、メキシコのポッチャリファイターに敗れることなど誰が予想できたでしょうか。(しかも7ラウンドKO負けで)
このダイレクトリマッチを制して今後のビックマッチへとアンソニー・ジョシュアは進んでいくのでしょうか。
それともアンディ・ルイスが見かけとは裏腹に激しい左右のラッシュで返り討ちにし、三団体統一ヘビー級王座がフロックではないことを見せつけるのか。
こちらも楽しみな一戦です。