以前、冬の気配を強く感じる11月下旬の寒い朝の5時ごろ、ヘラブナ釣りに向かおうと自宅を出て、車に乗り込もうとしたとき、ちょうどやってきたのが新聞配達の方。

「おはようございます!」。

爽やかにご挨拶をうけたので、「おはようございます!」と言葉を交わし、新聞を受け取ったその先にいたのは、スクーターに山のように新聞を載せた推定70歳過ぎと思われるおばあさん。

営業先に向かう途中、道路工事で工事現場の端に立って交通誘導をしていたのが、黄色いヘルメットをかぶった推定75歳過ぎと思われるおじいさん。

軽くコーヒーでもと思いコンビニに立ち寄ったとき、レジに立っていたのが推定70歳くらいのおばあさん。

スーパーで買い物をしているとき、お買い物カゴやカートを整理している推定75歳過ぎと思われるスタッフのおじいさん。

皆さま、そんな光景を目にしたことがありませんか?

「スタグフレーション」。

聞きなれない言葉だと思います。

スタグフレーションとは、不況下で景気が後退して賃金が上がらないにもかかわらず、物価が上昇していくことをいいます。

とくに原油や原材料などの価格はそれらを元にする製品の価格を左右します。

原油価格や原材料費の高騰は、それらを元にする製品の物価上昇サイクルまで作り出しますが、景気が良くなりそうなら賃金も上がる可能性が出てきますので、物価上昇もそれほど危惧されることはありません。

問題は景気低迷で賃金が上がりそうにもないのに、あるいはこれから悪くなりそうなのに物価だけが上昇していくことです。

2020年2月、世界中で新型コロナが蔓延。

そのパンデミックが引き起こした経済活動の低下対策として、各国の金融政策を決める中央銀行が大量の紙幣を印刷し銀行が保有している国債を買い上げ、銀行はそのお金で企業への融資を促進させ景気の循環サイクルを作り出そうと試みました。

結果、そのサイクルの恩恵を受けたお金は金融市場に流れ、企業業績や需要とは別のところで金融相場での好機を生み出していくことになります。

そのお金は株式市場だけにとどまらず、エネルギー資源、大豆や小麦、鉄鋼、木材などの商品先物市場、果ては仮想通貨市場まで流入。

やがて新型コロナで落ち込んだ消費需要が、ワクチン接種の普及とともに右肩上がりに。

そして生産ラインも復調していきます。

ただ、生産ラインの元となる原油や原材料は昨年から生産量を調整しているだけに、「作りたいけど作れない」状況に陥ります。

しかも時代は化石燃料に頼らないカーボンニュートラル、「脱炭素」を掲げだしました。

この「脱炭素」、うまく事が進めば良かったのですが、人類が自ら招いたような気候変動で、実用化まではなかなか進展しないことが積み重なります。

やむなく原点復帰、再び化石燃料を当てにすることになるのですが。

皮肉にもその時すでに、原油先物市場にはコロナ相場で増大した大量の投機マネーが流れ込んでいました。

2020年の4月、新型コロナでジェット機や大型バス、陸運でのトラック、海上輸送など、エネルギー需要が極端に激減していくなか、豊富に蓄えた在庫が増えすぎたため、原油先物相場では「お金を出すから原油を持っていってくれ!」状態の歴史上初となるマイナス40ドルまで落ち込みます。

そこから約1年半後の、2021年10月15日には1バレル 81.95ドルという高値をつけることに。

そこに追い打ちをかけたのが、世界の原油相場を牛耳る「OPECプラス」。

原油産出量の減産計画を発表します。

アメリカの中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)もECB(欧州中央銀行)も、「インフレ(物価上昇)は一時的なものだ!」と9月までは強がっていましたが、突如態度を変え、「どうやら、これは長期化するかも?」という表現になってきました。

読みが外れた各国中央銀行はバランスシート(お金を刷って銀行から資産を買い入れる)を見直す議論が明確化。

インフレ(価格上昇)があまりにも顕著なイギリスは、もう年内に政策金利の引き上げ「利上げ」で事態を抑え込もうというところまできています。

それでも、だいぶインフレ(物価上昇)が進んだとして、各国の中央銀行にインフレ(物価上昇)が長期化するとした見解がまとまったとしても、「明日からすぐにバランスシートを変えます!」とか、「明日出勤したら、すぐに政策金利を引き上げます!」なんてことにはならないですよね。

中央銀行の中にも思いっきり「ハト派」な意見もあって、「いやいや、来年の中頃まで事態を見守りましょう!」なんて発言も聞こえてきます。

その間はずうーっと物価上昇し続けるんですけど!

そして、いきなりズバッとバランスシートや政策金利を大幅に変更するのではなく、少しずつ、徐々に徐々に引き締めていくのが通例。

じゃあ、インフレ(物価上昇)が落ち着くまでの間、金融緩和によるインフレ(物価上昇)に対して、各国の中央銀行で「静観した」あるいは「当てが外れた」代償は、いったい誰が被りますか?

とくに日本みたいなエネルギー資源や鉄鋼・鉱石などの鉱物資源、穀物などを輸入に頼る国では。

冒頭でお伝えした「おじいさん」や「おばあさん」。

仕事をしているのには、さまざまな理由があると思います。

「何歳になっても働くこと」。

「働けるうちは働くこと」。

そのこと自体は非常に有意義なことですし、私なんか「死ぬまで」この仕事を続けなければならないかもしれません。

ただ、もっと深いところ、もっと本質的なところに働く理由があったとしたら?

新型コロナやインフレ(物価上昇)は5年後には収まっているかもしれません。

近い将来、今の問題はクリアされているかも。

だけど、日本はアメリカやオーストラリアなどの諸外国のように、今後人口が爆発的に増加し国内での消費が活性化、中国や北米大陸、アジア諸国などの消費に頼らず、国内のみで内需が潤う環境などまず見込めません。

そして、いつの時代も必ず日本の物価は海外市場に振り回される。

そのとき、日本の公的年金制度に、物価上昇に見合うだけの公的年金給付水準を期待したとしたら大間違い。

日本が公的年金制度において「マクロ経済スライド」を敷いている限り、それはあり得ませんから。

そう、日本の公的年金制度である「マクロ経済スライド」方式こそ、「スタグフレーション」の象徴のようにも思えてきますが。

これから冬を迎え、電力需要が高まる中、電力価格に直結するエネルギー資源の価格高騰は、新型コロナとともに早い段階での収束を心から願うばかりです。